治療した新しい歯が長持ちするかどうかの要因に治療対象の歯(土台となる歯=支台歯)の状態が大きく関係することは別ページでもご説明させて頂きました。ここでは少し詳しく歯の構造と土台となる歯の補強方法についてご説明申し上げます。
歯の内部には歯髄と呼ばれる部分があり、その中に神経が含まれています。この神経により歯は痛みを感じたりしますが、歯髄には神経の他にも様々なものが含まれ、その中の一つに血管が含まれています。 そして、歯はこの血管により常に血液供給されています。 歯はただの塊の様にもみえますが、実際には体の他の部分と同様に常に歯にとっての栄養が供給されています。
歯には大きく分けて、歯冠と歯根の2つの部分があります。歯冠とは歯肉(歯ぐき)から上に出ているお口の中に見える部分で、歯根とは、歯肉の中に埋まっていて通常はお口の中には見えません。
エナメル質 | 象牙質 |
歯冠の表面を覆う最も硬い組織です。 | エナメル質、セメント質の内側にあり、歯の大部分を占めています。 |
歯髄(神経) | セメント質 |
歯の中心部にある組織です。この中には、血管、リンパ管、神経線維などがあり、歯に栄養を与えています。 | 歯根の外側を覆う組織です。通常は歯肉の中に埋まっている部分です。 |
歯肉(歯ぐき) | 歯槽骨 |
いわゆる歯ぐきと呼ばれる部分でピンク色の粘膜です。 | 歯の周囲を支えている顎の骨の一部です。 |
歯髄の代表的な役割
【1】神経があることにより様々なサインを出す。痛みを感じる。
【2】血管により歯に栄養供給する
通常、歯科医はこの歯の中心となる歯髄を極力保存しようと考えています。
しかし、歯が虫歯になって強い痛みを伴う場合や、そのままでは痛みが治まらない場合などには神経を除去する処置(“抜髄”といいます)を行います。
抜髄を行うと、痛みを感じる元である神経は除去されるので痛みを感じなくなります。これは痛みを伴う場合の治療として有効であり、患者様もホッとされるところだと思われます。しかし、同時に血管繊維等を除去してしまうので上記【2】の役割である歯の栄養供給が遮断されてしまいます。そのことで歯は栄養供給を断たれた木のように、脆くなってしまいます。モロモロになるわけではありませんが、歯髄が健全に保たれている歯に比べ、欠けやすくなり、また、割れやすくなってしまいます。
歯髄を除去した場合の代表的なメリット・デメリット
メリット⇒痛みがなくなる
デメリット⇒歯が脆くなる・歯が変色してくる
そこでこの歯髄を除去し、脆くなった歯を割れにくいよう保護したり、補強することにより、その歯を長持ちさせる方法がいくつかあります。
特別な補強を必要としない場合
神経を除去しても歯の形がほとんど残っている場合などは、特別な補強をせず、少々足りない部分を材料で補い歯の形を修復します。
この場合、長持ちすれば良いですが、長い期間で考えるといずれ歯の色が変色してきたり、脆いままの状態が続くので割れやすくなったりします。
※・・・神経を除去した後につめるもの
補強を必要とする場合
クラウンをかぶせて保護・補強
土台の歯を保護するように帽子をかぶせるようなイメージです。歯の形の多くが残っていて、強度的に土台を補強する必要のない場合は、クラウンというかぶせもので、歯の全体を覆うことにより、土台を保護するようにしています。 またそれと同時に歯の形を修復し、変色した場合に目立たないように審美的に回復することを目的としています。 必要であれば金属その他の補強ピン(ポスト)を埋め込む場合もあります。
コアによる補強
コアとは治療対象の歯を補強すること等を目的に、金属やその他材料を埋め込んだり、差し込んだりするもので、その歯の芯となり軸となるものです。 天然の歯に比べ、神経を除去した歯は弱くなり、神経を除去した歯の中でも、歯の形の大部分を失っている場合はさらに土台としての強度が弱まります。そのような場合に、土台となる歯に材料を付け加え、土台そのものの強度を向上させます。 また、土台となる歯の形状をある程度まで(クラウンをかぶせる形に)復元させます。(筒枠にセメントを流しこんで硬く補強するようなイメージです。)
コアの種類(メタルコア・ゴールドコア・レジンコア・ファイバーコア)
メタルコア
金属を用いたコアです。土台となる歯を補強する場合、従来はこの金属による方法が主流でした。現在でも保険適応治療の場合は金属による補強を用いる場合があります。また保険適応外材料ですが、ゴールド(金)を用いたコアはその特性上、歯との馴染みが良いとされています。
レジンコア
白色系材料であるレジン(プラスチック様のもの)を土台補強用に開発し応用したコアです。従来の金属性コアは作製するために残存する土台となる歯をコア用に余分に削除する必要がありましたが、レジンコアは材料の特性上、余分な削除をほとんど必要とせず足りない部分に継ぎ足すような方法で用いることができます。また金属性コアに比較してその他利点があるため現在ではこのレジンコアが主流となっています。レジンのみ用いたコア、レジンに補強用の金属ピン(ネジのようなもの)を併用したものがあります。
ファイバーコア
最新の補強方法です。レジンコアの一種で見た目にはレジンコアとほとんど変わらず白色をしています。レジンコアに補強ピンを用いる場合に金属製のピンを用いずグラスファイバーを用いる方法です。 従来の金属を用いて補強する場合(メタルコア)、土台となる歯と金属との弾性係数(材料のしなりやすさ)の違いから、歯そのものに衝撃が加わった場合、しなりにくい金属が折れずに、歯が折れたり割れたりしてしまうことが近年の研究で明らかになってきました。 そこで、歯と弾性係数が近似している(=歯に近いしなりやすさをもつ)材料が開発されました。グラスファイバー(ガラス強化繊維の束)を用いた“ファイバーポスト”と呼ばれるものです。保険適応材料ではありませんがこのファイバーポストを歯の芯として用いることにより歯を補強し、また衝撃から歯を守るようにしています。
補強する方法には上記の様にいくつかの方法がありますが、それぞれに利点・欠点があります。そのような中、アーティスティックデンタルクリニックでは歯の長期安定性を考慮し、最も利点が優れているファイバーコアを基本に土台の補強に取り組んでいます。